ペットロスの悲しみ、辛さ、後悔など負の感情は、どうやったって、どうも上手く逃げてくれません。
この暗闇から抜け出したいけど全てを忘れてしまいたくはない。
この作品の主人公 民夫は、そんな負の感情との付き合い方について、気づきを与えてくれます。
その感触、消えちゃった方がいいの?
婚約者に呆気なく振られてしまった、心優しき好青年の民夫は、保護犬「ハウ」を飼うことになります。
しかしある日、民夫の不注意によりハウがいなくなってしまいます。
毎日必死に探しましたが、近くの焼却炉で焼かれた犬がハウではないかという知らせが入り、民夫は深いペットロスに陥ってしまいます。
なかなか立ち直れない民夫は、ハウのことを紹介してくれた上司の鍋島に
「まだハウが死んだってどうしても思えないんです。仕事をしていてもふいにリードの感触が蘇るんです。それがしんどくって。」
と相談します。
ハウを失った辛さを受け入れられず、早く忘れたいのに忘れられない。
そんな様子は、筆者が愛鳥を亡くした時に似ていると感じました。
筆者は、愛鳥を亡くした瞬間から日常が日常がなくなってしまった気がして、今の自分は本当の自分ではないのではないか とすら感じていました。
ペットを亡くし、現実逃避したい、受け入れられない気分は痛いほどわかります。
そんな民夫に鍋島は
「しんどいとは思うけど、その感触、消えちゃった方がいいの?赤西(民夫)はそれ、本当に望んでんのかなーって。」
と返答したのです。
筆者がペットロスに悩んで友人に話を聞いてもらっていた時、「ちゃっちゃと忘れて楽しいことだけ考えよう」と言われたことがあります。
その言葉を受けて忘れようとしましたが、忘れたいという気持ちに反して忘れられないこと、そして忘れたくない思い出などが交錯してしまい、せっかく友人に貰った言葉なのにという気持ちもあり、辛く落ち込みました。
鍋島の言葉は、民夫の感情を受け入れながらも
「忘れられないことは悪いことではない」
「自分は忘れることを望んでいない」
と民夫自身に気づかせてくれる、とても温かく寄り添った言葉なのではないでしょうか。
悲しみは上手に戸棚に
そして、ハウが亡くなったと断定は出来ないまま1年の月日が経ち、それでもハウが帰ってくることはありませんでした。
その頃、民夫の同僚の足立が愛猫を亡くし、ペットロスに陥っていました。
民夫はそんな足立に
「悲しみは、消えてしまうってないような気がする。だからせめて、上手に戸棚にしまえればって。」
と声をかけます。
筆者はこの言葉を聞いて、民夫は、ペットロスの深い悲しみから明るみへ、確実に一歩ずつ歩みを進めていると思いました。
悲しみとの付き合い方を自分なりに模索しているからです。
そして、この言葉を筆者のペットロスの最中に聞きたかったとも思いました。
ペットたちとの日々はとても楽しく幸せで、素直でいられます。
そしてペットたちは私たちにたくさんの愛情を注いでくれます。
それなのにずっと悲しむばかりでは、ペットは自分に責任を感じてしまうのではないか。
亡くなったペットは、飼い主がずっと悲しみ続けることを望んでいないのではないか。
民夫の言葉にそう思わされました。
そして、
「亡くなってから1年以上ずっとメソメソしていた私のこと、気がかりだったかな?新しい子をお迎えして前を向けているから、お空で安心してくれているといいな。」
そんな風に、亡くなった愛鳥に改めて思いを馳せるきっかけにもなりました。
民夫は、悲しみとの付き合いが上手いと感じます。
ペットロスがどうしようもなく悲しく、自分で自分のことを救えないと感じた時は是非、
民夫の悲しみとの付き合い方を教科書の1ページとしてみてください。
みなさんは悲しみとどのように付き合っていますか?
この作品をきっかけに、改めて自分の心を覗いてみてはいかがでしょうか。
あらすじ
※「ハウ」はNetflix・Amazonプライム・Huluなどでご視聴いただけます。
作品情報
原作:「ハウ」斉藤ひろし
配給:東映
公開日:2022年8月19日
スタッフ・キャスト
監督:犬童一心
脚本:斉藤ひろし・犬童一心
赤西民夫:田中圭
足立桃子:池田エライザ
鍋島史郎:野間口徹
ハウ:ベック
ナレーション:石田ゆり子
ワン!と鳴けない保護犬・ハウと、ちょっぴり気弱な青年・民夫。運命的にであった”ふたり”は、最高に幸せな時間を過ごしていたのだが……。そんなとき、突然ハウが姿を消す。
あらゆる手段を尽くしてハウを探す民夫だが、無情にも「ハウに似た犬が事故死した」という情報がもたらされる。しかし、横浜から遠く離れた北の地でハウは生きていたのだった!
ハウは、大好きな民夫の声を追い求め、青森から横浜、798キロの道のりを目指す。ハウは民夫を探して走る道中で、悩みや孤独、悲しみを抱えた人たちと出会い、そしてその人たちに寄り添い少しずつ心を癒やしていく。民夫の愛情をひと時も忘れず、ひた走るハウ。
果たしてハウは大好きな民夫と再会できるのか?そして、民夫とハウに訪れる”優しすぎる”結末とは__?
引用:Filmarks